企業が経営上の困難に直面したとき、まず思い浮かべるのは「破産」や「会社更生」といった法的手続きかもしれません。しかし、これらの方法は手続きが複雑で、会社の意思だけでは進めにくいという制約があります。こうした従来型の手続きとは異なる選択肢として注目されているのが「準則型私的整理」です。本コラムでは、私的整理の概要と準則型の特徴、代表的な手法を含め、企業再建の現場からわかりやすく解説します。
私的整理とは何か?
「私的整理」とは、裁判所を通さずに、企業が債権者と直接協議して債務問題を整理する方法を指します。法的手続きに比べて柔軟で、スピーディーに進められるのが特徴です。破産や会社更生のように裁判所が関与することはありませんが、その分、債権者との協力が不可欠です。
私的整理には以下の特徴があります。
▪️裁判所を介さずに債務整理や返済条件の変更が可能
▪️会社の意思で協議を進められる
▪️事業の継続が前提
▪️債権者の合意が得られなければ成立しない
私的整理は「裁判所を使わずに会社と債権者が話し合って再建を目指す方法」と理解するとわかりやすいでしょう。
準則型私的整理とは?
準則型私的整理は、私的整理の一種であり、従来型の私的整理よりも協議の枠組み(準則)を定めて進める点が特徴です。従来型の私的整理は柔軟ですが、手続きや交渉のルールが明確でないことがあり、債権者によって理解や納得に差が出やすいという課題があります。
準則型私的整理では、基本的な手続きの流れや情報提供のルールを定めることで、債権者にとっても透明性が高く、合意形成がスムーズに進めやすくなっています。そのため、債務整理や返済条件の変更に加えて、短期・中期の資金繰りや事業戦略を組み込みやすいのも大きなメリットです。
準則型私的整理の特徴
▪️協議の枠組み(準則)が定められており透明性が高い
▪️債権者に理解されやすく合意形成がスムーズ
▪️裁判所を通さずに手続きが進むため迅速
▪️事業継続を前提に、再建計画を柔軟に調整可能
準則型私的整理は、単なる私的整理よりも「制度的に整理された私的整理」と言えます。
破産や会社更生との違い
破産や会社更生は法的手続きで債務整理や再建を図るものですが、準則型私的整理との違いを整理すると次のようになります。
▪️破産:会社を清算して債務を整理する手続き。会社は原則として消滅。
▪️会社更生:裁判所の監督下で事業再建を進める手続き。手続き期間中は経営に制約がある。
▪️準則型私的整理:裁判所を通さず、債権者との合意で再建計画を策定。事業を継続しながら柔軟に再建可能。
たとえるなら、破産は「会社を丸ごと手放す」、会社更生は「プロの管理下で事業の再構築を進める」、準則型私的整理は「社内の判断と関係者との話し合いで軌道修正しながら事業を続ける」というイメージです。経営者にとって、事業を止めずに再建を進められる点が最大の魅力です。
準則型私的整理の具体的な流れ
準則型私的整理は、次のステップで進められますが、単に手順を追うだけでなく、それぞれの段階で企業と債権者がどのように協力し、意思決定を行うかが重要です。
1. 財務状況の把握
まず、会社の資産・負債・キャッシュフローを正確に整理します。これにより、どの程度の返済猶予や債務免除が可能かを判断でき、再建計画の基礎となります。
2. 債権者との協議
財務状況を提示しながら、返済条件の見直しや債務の一部免除について債権者と話し合います。ここで透明性のある情報提供と、双方の利益を考慮した提案が重要です。
3. 再建計画の策定
協議で得られた合意案を基に、事業の立て直し方針や資金繰り計画をまとめます。短期的なキャッシュフローの改善策だけでなく、中長期的な事業戦略も含めることで、債権者の納得感が高まります。
4. 債権者の同意取得
再建計画を債権者に提示し、最終的な合意を得ます。裁判所の強制力がないため、ここでの合意形成が成功の鍵となります。
5. 実行
合意内容に沿って返済や資金調達を行い、事業再建を進めます。計画通りに実行することで、企業は信頼を維持しながら経営を継続できます。
代表的な準則型私的整理
準則型私的整理の代表例には、事業再生ADRや中小企業再生支援協議会による支援があります。
事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)
国が認定した第三者機関(ADRセンター)が仲介し、会社と金融機関の協議をスムーズに進めます。裁判所を通さず、返済条件や債務整理について合意形成できるのが特徴で、手続きの透明性が高く、債権者の理解を得やすい手法です。
中小企業再生支援協議会による手法
全国の中小企業支援機関が関与し、財務整理や資金繰り改善策、債権者交渉のサポートを行います。こちらも裁判所を通さず、合意形成による事業再建を目指す準則型私的整理の一例です。
両者に共通するのは、裁判所を使わず事業を継続したまま再建できる点であり、準則型私的整理のメリットを最大限に活かせます。
どのような企業に向いているか
準則型私的整理は、特に中小企業や事業継続を重視する企業に適しています。破産や会社更生のように裁判所の監督下に置かれることなく、社内の意思決定や債権者との話し合いを中心に再建を進められるためです。また、取引先や金融機関との信頼関係がしっかりしている企業であれば、合意形成がよりスムーズに進みます。
さらに、短期的な資金繰り改善だけでなく、中長期的な事業戦略を組み込むことが可能なため、単なる債務整理ではなく、持続可能な成長を目指す企業に向いています。準則型私的整理は、経営者が主体的に再建策を描きながら、債権者と協力して進める手法といえます。
おわりに
準則型私的整理は、破産や会社更生のような従来型手続きとは異なり、私的整理の一種でありながら、手続きの枠組みに沿って合意形成を進める手法です。事業を止めずに再建できる柔軟性と、債権者に理解されやすい透明性が大きな特徴です。代表的な手法として事業再生ADRや中小企業再生支援協議会による支援があり、中小企業や事業継続を重視する企業に向いています。
経営者にとって、破産や会社更生だけが選択肢ではありません。準則型私的整理を知り、必要に応じて専門家に相談することで、経営危機を乗り越える道が開けます。
ポイント
▪️準則型私的整理は「裁判所を通さず、協議の枠組みに沿って進める再建手法」
▪️事業継続を前提に柔軟な再建計画が可能
▪️代表的な手法に事業再生ADRや中小企業再生支援協議会の支援がある
▪️債権者との信頼関係と専門家のサポートが成功のカギ
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