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破産制度

第27回破産コラム 破産の基本用語-偏頗弁済とは何か破産の基礎から解説

企業の資金繰りが悪化し、破産手続を検討せざるを得ない局面では、経営者にとって精神的負担が大きくなります。取引先に迷惑をかけたくないという思いから、一部の債権者に事情を説明したり、何とか支払いを続けようとするケースも見られます。しかし、こうした“誠意”のつもりの行動が、破産実務の観点では思わぬリスクを伴う場合があるのです。その代表例が「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれる行為です。

今回のコラムでは、偏頗弁済とは何かについて、破産の基礎から解説したいと思います。

破産手続と債権者間の公平

企業や法人が返済困難な状況に陥った場合、破産手続は債務を整理し、債権者間で公平に財産を分配するための制度です。破産手続の特徴の一つは、債権者全体の公平性を確保することにあります。つまり、特定の債権者だけが優遇されることがないよう、制度上で一定の制約が設けられています。

企業や法人が、資金繰りの悪化に伴って取引先への対応を行う際には、この「公平性」という視点を念頭に置くことが重要です。特に破産手続開始後でなくとも、債権者間の公平を損なう行為は後に問題になる場合があることを理解しておく必要があります。

偏頗弁済とは何か

偏頗弁済とは、破産が現実的に予見される段階で、特定の債権者にだけ支払いを行ったり、担保を供与したりする行為のことを言います。破産法や民事再生法では、債務者による不当な偏頗弁済を制限することで、債権者間の公平性を確保する仕組みが用意されています。

ここで注意すべき点は、破産手続開始決定前の支払い行為であっても、債権者に公平性を確保する観点から偏頗弁済として評価されることがあるという点です。一般の方にとっては、まだ破産手続が始まっていない段階での支払いは「自由に行える」と考えがちですが、実際にはそうではありません。債務超過に陥っていたり、資金繰りが逼迫している段階の支払いは、破産手続が開始前であっても、偏頗弁済と判断されるケースも少なくありません。

偏頗弁済とされるとどうなるのか

もし、債務者の行なった支払行為等が偏頗弁済と判断された場合には、破産管財人は、否認権と呼ばれる特別な権利を行使し、偏頗弁済の効力を否定することによって、支払われた金銭等の返還を請求することになります。この「否認権」の行使により、特定の債権者が受け取った金銭は破産財団(債権者に返済を行うための原資)に戻され、他の債権者と公平に分配されることになります。

否認権により偏頗弁済の効力が否定されると、債権者が支払われた金銭を既に消費してしまったような場合でも、受け取った金銭の全額を返還するのが原則となります。

また、特定の債権者を害する目的で偏頗弁済を行うと、悪質な場合には刑事罰に問われる可能性もあります。なお、個人の破産のケースで偏頗弁済を行うと、免責不許可事由となってしまう場合もあります。

偏頗弁済を行うと、破産手続の進行に悪影響があるだけでなく、取引先も返還義務を負うため、良かれと思った優先弁済によって結果的に迷惑をかけてしまうおそれがあります。

偏頗弁済が問題となる典型的な場面

実務上、偏頗弁済のリスクが高いとされるのは、次のような場面です。

・長年の取引先への「義理返済」を優先する場合
・個人保証が付いている金融機関への返済を優先する場合
・親族会社や関連会社への支払いを優先する場合

いずれも、経営者としては自然な対応のように思えることがあります。しかし、破産手続の視点から見ると、特定の債権者だけを守ったと評価されることが少なくありません。無意識のうちに上記のような行為をしないように、慎重な判断が求められます。

偏頗弁済を避けるために

偏頗弁済を避けるためには、破産前の資金管理や取引先対応において、いくつかのポイントを押さえることが有効です。

まず、資金繰りが逼迫している段階では、特定の債権者にだけ支払いを優先して行わないことが望ましいと言えます。また、支払期日や確約など、特定の債権者に対して確定的な約束をしないことも重要です。確約を行うことで、後に偏頗弁済と評価される可能性が高まる場合があります。

さらに、取引先に優遇を示唆するような発言は避けるべきです。「御社だけは大事にしたい」といった言葉は、経営者として自然な思いかもしれませんが、破産手続では偏頗目的の証拠として扱われる場合があります。加えて、虚偽や過度に楽観的な説明も控える必要があります。「経理の都合で一時的に遅れているだけです」「来週には支払える見込みです」といった説明が事実と異なると、偏頗弁済とは別の損害賠償リスクにつながるおそれがあります。

債務超過に陥っていたり、資金繰りが逼迫している段階の支払いでは、取引先への対応や情報の扱いを均一化し、公平・中立の姿勢を保つことが、偏頗弁済リスクを低減する上で重要であると考えられます。

おわりに

今回のコラムでは、偏頗弁済とは何かについて、破産の基礎から解説しましたが、いかがだったでしょうか。偏頗弁済は、破産手続の根幹である「債権者間の公平」を守るために制限されています。破産開始前の支払いであっても、破産が予見できる状況下では偏頗弁済として評価されることがある点は注意が必要です。典型的な問題場面や対応の方針を知ることで、破産前の支払い等をより適切に行えるのではないでしょうか。

企業の経営者としては、感情や慣習だけで行動せず、公平性を意識した対応を心がけることが、偏頗弁済による破産手続におけるリスク回避につながると言えるでしょう。

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